北信濃神楽採訪

北信濃の獅子舞い



北信地域の獅子舞いの大半は「二人立ち獅子舞い」。獅子頭をすっぽり被った前役(前足)と、1人ないし複数人の後持ち役(後足)で舞う。東信地域で舞われている「一人立ち獅子舞い」は北信には無さそう。これは、小ぶりの獅子あるいは鹿、竜のような獅子頭を被り、最初から最後まで一人立ちの3頭(人)がひと組で舞う獅子舞い。今のところ北信濃では見聞きしていない。

「二人立ち獅子舞い」は、一つ一つの獅子舞いごとに個性的だが、囃子や舞い方、祭りの演出などで比較して、類型化を試みる。獅子舞いの伝播を考える上で参考になるかどうか。資料としては「奥信濃の祭り考」「長野県の民俗芸能-長野県民俗芸能緊急調査報告書-」などを参照した。

1 太々神楽(だいだいかぐら)。善光寺平一円に「太々神楽・大神楽・ダイカグラ」と呼ばれる獅子舞いがある。笛は比較的高音で、獅子舞いでは独管(一人)で囃す。太鼓は紐締長胴太鼓(信州型太鼓?)、当たり鉦(チャンチキ)を用いることが特徴。地域により雰囲気が変わる。中野市あたりでは太々神楽にイタコ獅子の要素も含んだ個性的な獅子舞いもある。北信で一番多くの地区に伝播しており、さらに類型化できるかもしれない。岳北・奥信濃方面にはほとんど伝播しておらず、千曲川沿いでは豊田村、木島平村南部あたりが北限のようだ。

ダイカグラとは代参神楽の意であると各資料にはある。伊勢神宮に行けない者のため、御師(世話人)が各地で獅子神楽を舞ったようだ。すると北信全域の二人立ち獅子舞いは全て「ダイカグラ」に含まれることも考えられるため、太神楽・大神楽・ダイカグラと称している地区も多いが本サイトでは「太々神楽」とした。なお、五束、赤岩、上今井、戸隠神社で「太々神楽」と呼ばれる巫子舞、採り物神楽があるが、こちらは獅子舞いではない。

2 奥信濃の獅子舞い。岳北(高社山以北)から県境にかけての獅子舞い。道中囃子、獅子舞い、シメキリに「チャンドコ」という囃子(曲名は地区により異なる)を用いることが特徴。それ以外は、雰囲気は似通っているが、それぞれ個性的。囃子は、笛は比較的低音で連管(複数人)が多く、太鼓は大太鼓。奥信濃のうち北部ではすり鉦(銅拍子・チャッパ・シンバル)を用いるところが多く、南部にくると鉦を使わない地区が多い。天狗(猿田彦)によるシメキリ(標きり、締めきり、七五三きり)が多いこと、「神楽」がほとんど無いことも奥信濃の祭りの特徴。

3 イタコ獅子。小布施町、中野市に「イタコ(獅子)」と呼ばれる獅子舞いがある。獅子舞いに三味線や小鼓(こつづみ)、大鼓(おおつづみ)を使うことが特徴の一つ。笛は低音から中間音程度で、連管あるいは独管で囃す。周辺には三味線は用いないが(途絶えたが)旋律や雰囲気の似通った獅子舞いが分布している。雰囲気は似通っているが、それぞれ個性的。イタコ獅子と明確に定義できる共通点はなさそう。イタコとは、獅子舞いに長唄の「イタコ節」を用いているからと資料にあるが、どの旋律なのかはっきりとしないらしい。

4 旧囃子。信濃町の一部地域には「旧囃子」と呼ばれる獅子舞いがある。雰囲気の似通った獅子舞いが信濃町・三水村・豊田村に分布。囃子は、笛は比較的低音で連管が多く、太鼓は大太鼓。当たり鉦(チャンチキ)を用いるところが多い。信濃町柏原、御料、下柴津、三水村御所の入での獅子舞いの旋律は特に似通っていると思うが、これをベースに他の地区のものへ変化したのか、逆に伝播したものなのか興味深い。雰囲気は似通っているが、それぞれ個性的で、旧囃子とする明確な定義はなさそう。なお、「旧囃子」がある地域には他に「新囃子」と呼ぶ獅子舞いがあり、こちらは太々神楽の系統だ。

5 大獅子。長野市権堂、三才、篠ノ井内堀・柴澤、信濃町南仲町、中野市西町、飯山市大深には「大獅子(舞い)」がある。二人立ち獅子舞いではない。巨大な獅子頭を一人ないし複数人で支え、幌の中に大勢人が入り、道中を練り歩くものだ。幌の後部が屋台と繋がっているものは「屋台獅子」とも呼ぶ。飯田市周辺には大獅子・屋台獅子が多いらしいが、北信では数少ない。

とりあえず5つの区分を考えてみたが類型化の難しい個性派が多い。また獅子舞い以外に、獅子頭は被るものの、獅子狂言(獅子芝居)、面神楽といった余興芸もある。